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お知らせ(5/21更新)

6月3日(水)より6月14日(日)まで再開


新型コロナウィルス感染拡大防止に伴う3月28日(土)からの休廊により、一時中断していた大垣美穂子と佐藤雅晴による二人展「尾行—不在の存在/存在の不在」を、6月3日(水)から6月14日(日)まで再開いたします。

  • 事前予約をお願いいたします:事前予約を申し込む
  • 開廊時間:水・木・金 11:00~19:00、土・日 11:00~17:00
  • 休廊:月・火
  • 発熱や風邪症状のある際はご来場はお控えください。入場時は、マスクの着用・検温・消毒へのご協力をお願いします。

KEN NAKAHASHIでは2020年3月13日(金)から4月10日(金)まで、大垣美穂子と佐藤雅晴による二人展「尾行—不在の存在/存在の不在」を開催いたします。


同世代で同時期にドイツのデュッセルドルフで学び、ドイツと日本でプライベート上のパートナーとしても活動を共にした大垣美穂子と佐藤雅晴。


佐藤雅晴は、KEN NAKAHASHIでの初となる個展「死神先生」の開催期間中である2019年3月9日に、10年に及ぶ癌との闘病生活の末、死去しました。佐藤の一周忌にあたる時期に合わせ開催する本展では、大垣と佐藤の作品に共通している、不在と存在や、生前と死後などの相反する要素が内包されている特徴や、作品化する対象を自分の中に取り込み「尾行」しようとする側面に注目します。


2013年、くも膜下出血を発症し、闘病期間を経て病を克服した大垣美穂子は、立体、インスタレーション、ドローイング、映像、パフォーマンスなど多岐にわたるメディアによって、生きること、老いること、そして死について、その表象を作品上で費やすのではなく、自分自身の日々の暮らしに真摯に向き合いながら制作活動を行なっています。

デュッセルドルフ・クンストアカデミー在学中、3年におよぶ制作期間を経て、レインボービーズで表面を埋め尽くした乳母車と霊柩車を用いた連作、「before the beginning—after the end #1」(2003)と「before the beginning—after the end #2」(2003-2005)を発表しました。生まれる前に見るビジョンと死んだ後に見るビジョン—あるいは誰もが語り得ない領域—をテーマに何枚ものドローイングを描き、それらを連続させることで映像化し、乳母車と霊柩車内に設置したビデオ・サウンドインスタレーションです。乳母車の内側を覗き込み、または霊柩車の内部に身を横たえると、生まれる前と死んだ後に見るビジョンとサウンドが、鑑賞者の耳目に触れられる作品です。表面を覆う数え切れないほどのパールビーズの集合体は、外側からはきらきらと光り輝き、その存在を際立たせていますが、生や死の表象を内側に隠しています。作品タイトルにも、始まりの前と終わりの後というパラドックスが込められています。

無数の点が画面を覆い尽くすように描かれたペインティングシリーズ「Star Tale」(2012-2013)や「immortal moment」(2019)、そして老いていく身体などをモチーフにし、感情のメタファーとして無数の穴があけられ内蔵された光源によって銀河のように巧みに空間を照らし出す、立体インスタレーションシリーズ「Milky Way」も、自分自身の身体や、身近な存在の生や死に向き合い、生きていることの実感(メメント・ビブレ)と死を想うこと(メメント・モリ)を確認する行為、言い換えれば写経のように無数の点でなぞり「尾行」するような行為だと言えるでしょう。

乳母車と霊柩車という2つの乗り物がなす対抗律や、立体作品シリーズMilky Wayの老いた身体の像が、暗闇では子供のような印象を鑑賞者に与えるという差延。このように、相反する要素を同居させることで、始まりと終わりが極限までいき連続する様や宇宙的なスケールの時間へと、鑑賞者を没入させていきます。

本展では、乳母車の作品「before the beginning—after the end #1」(2003)を再構成し発表します。


相反するものが共存する時間を鑑賞者に感じさせるという特徴は、実写をトレースし更に映像化された佐藤雅晴の「リアルでどこか奇妙」な作品にも共通しています。

佐藤雅晴は日本に帰国した2010年、歯の不調により診察した歯科医で撮影したレントゲン写真により、上顎に癌があることを発見しました。その後、度重なる手術や放射線治療、抗癌治療などを行う生活を送りながら、自分の身体がどうなっていくのかという個人的な現実問題として、生や死、絶望や希望、不在や存在ということに向き合い、作品を制作してきました。

佐藤にとってトレースとは、自身の暮らす土地、家族や友人、目の前に広がる風景への理解を深め、自分の中に取り込むというまるで「尾行」のような行為です。原美術館で発表した「東京尾行」(2016)は、トレースされた「虚」の世界と「実」の世界が交わり出力された映像作品ですが、とてもシンプルなアプローチにもかかわらず、見る人それぞれが、孤独や不安、ノスタルジーやユーモアを感じたり、様々な作品の解釈を導き出しました。誰もいないのに揺れ続けるブランコや、部屋の中で回転し続ける椅子など、不思議な映像があります。それらは、ある一定の動きをあたかも自然な運動のようにつないで、ループさせることで成立している映像ですが、そこには不穏な何かの存在が映されています。

誰もいない部屋や、日本の国歌が流れるカラオケボックスなどで、ただひたすら鳴り続ける電話を描いた「Calling」(2009-2014/2018)、伊達巻がひたすら生産される過程を描いた「ダテマキ」(2013)、原発事故や津波で人がいなくなってしまった震災後の福島の風景を、癌に侵される中でも撮り続け、未完ながらも発表した「福島尾行」(2018)など、不在または存在というこれらの作品に込められた互いに拮抗するテーマは、佐藤の映像作品に潜む不気味さでもあり、混迷する世の中を象徴し、私たちを自身の日常に立ち返らせる指標にもなっています。佐藤によって提示されたこれらの作品の中の風景に、私たちはどのような存在を見出していくのでしょうか。

本展では、佐藤雅晴の代表作の一つであり2019年に森美術館で開催された「六本木クロッシング2019展: つないでみる」でも発表した作品「Calling (ドイツ編、日本編)」(2009-2014/2018)と、約4年の制作期間を経て、2008年5月、六本木にかつてあった住宅展示場で開催され、佐藤の日本デビューとなった展覧会「第4回 団・DANS ―The House―現代アートの住み心地」で初めて発表された作品「TRAUM」(2004-2007)を組み合わせ、展示空間を構成します。


大垣美穂子は1973年富山県生まれ。1995年に愛知県立芸術大学美術学部美術科油画専攻を卒業。1996年からドイツ国立デュッセルドルフ・クンストアカデミーに留学。2004年に同大学を卒業し、ドイツで活動した後、2010年に拠点を日本に移しました。

これまでデュッセルドルフ、ニューヨーク、ワシントン、京都、東京など世界の各主要都市で作品を発表。2003年、ノルトライン・ヴェストファーレン州のミュージアム・バーデンで行われた展覧会「57回ベルギッシェ・クンスト・アウスステールング」にてオーディエンス賞を受賞。2013年に東京オペラシティアートギャラリーで開催された「project N 54 大垣美穂子」で注目を集め、2019年には町田市立国際版画美術館で開催された「THE BODY—身体の宇宙—」に参加するなど、国内外で精力的に活動しています。


佐藤雅晴は1973年大分県生まれ。1999年東京藝術大学大学院修士課程修了後、デュッセルドルフ・クンストアカデミーに在籍、10年間滞在し、2010年日本に帰国。

パソコンソフトのペンツールを用いて、ビデオカメラで撮影した実写の風景を、膨大な数の作画によりトレースしたアニメーション作品で知られています。世界各国の主要都市で精力的に作品を発表し、2009年には第12回岡本太郎現代芸術賞特別賞を受賞、2011年には第15回文化庁メディア芸術祭審査委員会の推薦作品に選ばれています。2016年、原美術館で個展「ハラドキュメンツ10 佐藤雅晴ー東京尾行」を開催し、国内外から大きな注目を集めました。2019年には森美術館での「六本木クロッシング2019展:つないでみる」、トーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)での「ACT」シリーズ第1弾「霞はじめてたなびく」、そしてKEN NAKAHASHIでの個展「死神先生」が、3箇所で並行して開催されているさなか、3月9日午前10時56分に、家族に見守られながら眠るように、45歳の若さでこの世を去りました。2020年は、「DOMANI・明日展2020」にも参加しましたが、ヨコハマトリエンナーレ2020「Afterglow―光の破片をつかまえる」でも、個展「死神先生」で発表したペインティング作品などが展示される予定であり、今後とも佐藤の作品は多くの人の目に触れられることになるでしょう。


【展覧会概要】

  • 名称:「尾行—不在の存在/存在の不在」
  • アーティスト:大垣美穂子、佐藤雅晴
  • 当初会期:2020年3月13日(金) - 4月10日(金)
  • 会場:KEN NAKAHASHI (160-0022 東京都新宿区新宿3-1-32 新宿ビル2号館5階)
  • 開廊時間:11:00 - 19:00
  • 休廊:日・月


【Video 展示風景映像】