Exhibitions

 

KEN NAKAHASHIでは2020年1月14日(火)から2月29日(土)まで、井原信次、松下まり子、森栄喜、ヨーガン・アクセルバルによる「one’s behavior」を開催いたします。


展覧会タイトルである「one’s behavior」は、作品群がもつ共通のテーマそのものを指すだけでなく、自他を理解し愛そうとする姿勢や精神をも標榜し、何層にも重なった思いやコミュケーションの熱の源泉となる、瞬間毎の振る舞いを意味します。

ドローイングや写真作品と共に、日々の思考の軌跡から紡ぎだした散文、詩、物語などの言葉を、張り巡らされた関係性の網目として、ギャラリーの空間で同時に抱え込み、多層的な始まりや、複数の個が持つ独自の意識や声によるポリフォニーを発生させようとする試みです。


愛する人や友人、自画像など、ポートレートを主に描いてきた井原信次。井原にとって、社会やコミュニティーから感じる孤独感は、他者ともっと繋がりたいという作品制作の根源となっています。2018年10月、当ギャラリーで発表したMEYOUシリーズでは、自己(ME)と他者(YOU)の距離を近づけようと、SNS上で繋がり交換した画像や言葉のやりとりを元に、本当の名前も住んでいる場所も知らない人たちを描きました。展覧会を終えた井原は、世界各地を旅して回り始めました。

近年では、旅を通して出会った人についての回想文、紙袋などに描いたドローイング、記録的媒体として保存している出会った人々にまつわる写真や、記憶の接続点となる普段は見過ごしてしまうような「些細なもの」を組み合わせた新作の「Love Your Neighbor」シリーズに取り組んでいます。本展では、その新シリーズの作品群の中から一部をプロローグとしてお見せします。


まだ知らぬ隣人たちに旅を通じて近づこう、理解を深めようとする行為。それは、松下まり子が世界各地で集めてきた赤い布で窓を覆う作品「赤い部屋」や、ドローイングや言葉をノートにしたためている行為にも認めることができます。松下まり子は、性愛や生きる痛み、自然/原我との対話、各地の神や死生観に興味を持ち制作しています。人間という生き物を考え、怖くて奇妙だが、もし可能であれば接点を持ちたい、触れたいと思って描いているドローイングや、固いコードを持つ前の、ふわふわと空中を浮遊しているような思念を、忘れぬよう書き綴った言葉のメモなどで、各地への旅を続けながら蓄積しています。

松下の作品は日記のように日々の感情や記憶を反映し変化しますが、本展ではそれらの中でも穏やかな時期のドローイングを展示します。一つ一つの紙に残された線や言葉は、小さな始まりとなり、今後も増殖し、蓄積し続けていきます。


沢山の小さな始まりを他者との関係の中に発生させる行為は、写真、映像、パフォーマンス、言葉など多岐にわたる方法で「小さいながらもたしかなこと」—東京都写真美術館で開催された日本の新進作家展のタイトル—を描写しようとする森栄喜の姿勢とも共通しています。森栄喜は、2018年、フェスティバル/トーキョーで、パフォーマンス作品「A Poet: We See a Rainbow」を上演。 自らの体験、感情を交えた「詩」の朗読を通じて、LGBTをはじめとする多様性のあり方について自身が体感する「問い」を、 公共空間に投げかけました。2018から2019年にかけて東京都写真美術館で開催された「小さいながらもたしかなこと 日本の新進作家vol.15」展 の関連イベントでは、「声や言葉が朽ち果てても、なお伝え合うふたり」をテーマに、交互に朗読する声と、ベルの音が静かに響き渡り消えゆく、「せっかちな未来/An Impatient Future」というタイトルのパフォーマンスを行いました。同2019年、3331 ART FAIRでは、自己と他者の境界をテーマにした、親密な記憶を身体的な動きに変換、視覚化し模倣し合うパフォーマンス「合言葉/Sweet Shibboleth」を上演。 これらの展覧会や、パフォーマンスから派生した思いや問いかけがイニシエーションとなり、社会の中で見過ごされてしまうかもしれないものに自分自身も参与し続けながら、更に、森は新たな制作活動へと出発を切ろうとしています。新たな作品群は、今後、個展などの場で発表予定です。

本展では、家族をテーマにした「Family Regained」から生まれてきた真っ赤な写真の中に溶け込むように現れる「拡大家族」とはコントラストをなす、「個の肖像」を象徴する未発表のモノクロ写真から3点を発表します。「Family Regained」は、森自身が親しくしている身近な共同体=「社会形態の小さな一つの縮図」を、多様な家族形態やセクシュアリティーの実例として、自身の写真に取り込み、関わりを派生させようとした作品です。

モノクロの「個の肖像」からは、物理的にも心理的にも家族の外にありながら、撮影者である森と被写体との間に、こぼれ落ちてくる愛情や、交錯する声が滲み出てくるようです。また、社会の中の家族の一員としての規範や役割を意識もせず、背負いもせず、まっさらな個として存在している、意識、強さ、孤独、そして個であるが故に他者に馳せられる愛おしい思い—他者への渇望—の表象でもあります。


将来の制作へ向かっていく姿勢、継続したコミュニケーションへと駆り立てる熱量、見えなかったものが見えるようになるため、自己や他者をよりよく知り、より深く理解し、より多く愛そうとする「隣人愛」の精神は、ヨーガン・アクセルバルがライフワークとして制作する青年と花の写真シリーズや、近年執筆し始めた物語にも、見出すことができます。

アクセルバルは、ゲイであることをオープンにしていく移行段階で、自身の幼少期から青年期に一旦何が起こったのかを回想し、受け入れて、自分の写真がどこに向かっていくのかを、よりよく理解することに繋げていきました。自身の写真作品と、現代日本の最も著名で多作な詩人、エッセイスト、作家の一人である高橋睦郎が書き下ろした詩を一冊の写真集に結実させた『Go to become なりに行く』や、2019年11月に開催した個展「And I reminisce」で発表した同タイトルの短編物語を自らも執筆するなど、写真と詩、物語を通して、自己や他者についてより深く理解しようとする行為を、他者を巻き込みながら続けてきました。本展では、友人や花を被写体にした新しい写真作品2点と、2019年11月の個展で発表した短編物語「And I reminisce」の続編の序章となる小さな詩を発表します。


【展覧会概要】

  • 名称:「one’s behavior」
  • アーティスト:井原信次、松下まり子、森栄喜、ヨーガン・アクセルバル
  • 会期:2020年1月14日(火) - 2月29日(土)
  • 会場:KEN NAKAHASHI (160-0022 東京都新宿区新宿3-1-32 新宿ビル2号館5階)
  • 開廊時間:11:00 - 19:00
  • 休廊:日・月
  • オープニング:1月17日(金) 17:00 - 19:00