Exhibitions
Moonbow Flags
森栄喜
2025/10/10 until 2025/12/20
森栄喜「Moonbow Flags」
会期:2025年10月10日(金)– 12月20日(土)
開廊日時: 火–土 13:00-20:00
休廊: 日・月
オープニング: 10月10日(金)18:00-20:00 *作家も在廊致します。
KEN NAKAHASHIでは、2025年10月10日(金)から12月20日(土)まで、森栄喜の個展「Moonbow Flags」を開催します。
2年ぶりの個展となる本展では、森が描いた白い図形とポートレートを組み合わせた新しい写真シリーズ「Moonbow Flags」を発表します。
本作の着想の一つとなったのは、1968年5月にフランスで起きた「五月革命」のスローガン「敷石の下はビーチ!」という言葉です。抑圧の下に広がる自由の可能性を示唆するこの言葉を起点に、森は国家や権力の象徴としての「旗」と、日常の中で見られるキッチンのタイル模様や壁紙の幾何学模様とを組み合わせ、固定されたシンボルの意味を再解釈する試みを行いました。
タイトルにある「Moonbow(ムーンボウ)」とは、月光によって生じる虹を指し、通常の虹とは異なり、目を凝らさないと見えないほど微かに浮かび上がる現象です。「Moonbow Flags」というタイトルには、既存の旗が持つ権威や象徴性を解体し、偶然性や遊び心を取り入れることで、固定観念にとらわれない新たな視点を提示する森の意図が込められています。
本シリーズでは、過去10年間に撮影した未発表のポートレートと、旗の幾何学的構成を参照して描いた白い図形をフォトグラム技法によって重ね合わせ、約24点の作品を制作しました。光景が記録されたネガフィルムと、図形が描かれたアクリル板という異なるレイヤーを暗室で重ね、1枚の写真プリントとして焼き付けることで、伝統的なフォトグラムのような「オブジェと影」ではなく、それぞれが独立しながらも侵食し合う新たな表現が生まれました。
図形は、国旗やレインボーフラッグなどのコミュニティの旗が手染めや手縫いによって作られてきた歴史に倣い、すべて手描きで表現されています。さらに、フォトグラムの工程やプリントの過程においても職人と協働し、すべてを手作業で行うことで、素材の質感や制作の痕跡が作品に刻まれていきました。また、白い図形にはアクリル絵の具に修正液を加えたものが使用されています。修正液が持つ「塗りつぶす」「隠す」という役割を転換させ、透明感や光沢を伴った質感を写真上に定着させています。森は、修正液のこの働きを「過去を塗り替えるのではなく、未来にそっと書き添えるような行為、写真の表面の薄い膜の中に宿る未来への更新、祝福のようなもの」と捉えています。
こうして制作された作品群では、図形が滲み、透け、反射しながら、前景と後景、ポートレートと幾何学模様の境界が曖昧になり、常に入れ替わり変容していきます。その流動性の中で、抑圧と自由、国家と個人が交錯する空間が立ち現れ、ビーチ(楽園・自由・解放)のようなイメージがぼんやりと浮かび上がります。
森はこれまで、「intimacy」(2013年)で同性の恋人や友人との親密な関係を、「Family Regained」(2017年)では血縁に基づかない新たな家族のあり方を探求してきました。前回の個展「ネズミたちの寝言|We Squeak」(2023年)では、一人ひとりが眠るという受動的な行為を通じて抵抗の可能性を探るインスタレーションを展開しました。本展「Moonbow Flags」では、同じく個の行為に着目しながらも、「眠る」ことから「旗を掲げる」ことへと視点を移し、一人ひとりの行為が社会の中でどのように機能し得るのかを問い直します。「ネズミたちの寝言|We Squeak」において、静かな抵抗が集合することを示唆したのに対し、「Moonbow Flags」では、旗というシンボルが個々の存在によって流動し変化しうることの可能性を標榜し、個人と社会の関係性をより視覚的に浮かび上がらせます。
森栄喜のこれまでの作品が、個人の親密な記憶や社会的な規範との関係を探求してきたように、「Moonbow Flags」もまた、社会と個人、歴史と日常、権威と遊びの間に生まれる曖昧な領域を可視化する試みとなるでしょう。
ぜひご高覧いただけますと幸いです。
森栄喜
1976年石川県生まれ。パーソンズ美術大学写真学科卒業。東京在住。
写真集『intimacy』で第39回(2013年度)木村伊兵衛賞を受賞。
写真やパフォーマンスに加え、サウンド・インスタレーション、映像、ドローイング、詩や短編の執筆など、多岐にわたる表現を横断的に展開。
既存の概念や規範を揺り動かしうる周縁化された声や存在を感じ合い、それらの「小さな波」を集めて大きな波を作り出そうと実践を続けています。
主な展覧会に、「ネズミたちの寝言|We Squeak」(2023年、KEN NAKAHASHI、東京)、「高松コンテンポラリー・アート・アニュアル vol.10 ここに境界線はない。/?」(2022年、高松市美術館、香川)、「フェミニズムズ/FEMINISMS」(2022年、金沢21世紀美術館、石川)、「シボレス|破れたカーディガンの穴から海原を覗く」(2020年、KEN NAKAHASHI、東京)、「小さいながらもたしかなこと 日本の新進作家vol.15」(2018年、東京都写真美術館、東京)、「Family Regained」(2017年、KEN NAKAHASHI、東京)など。
作品は、国内外の個人コレクターに加え、スペンサー美術館(アメリカ)、SUNPRIDE FOUNDATION(香港)、東京都写真美術館などのパブリックコレクションにも収蔵されています。