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KEN NAKAHASHIでは2019年2月15日(金)より3月16日(土)まで、佐藤雅晴による個展「死神先生」を開催いたします。

8年近く難病と闘い続けている佐藤雅晴。昨年9月に余命宣告を受けてからは、病状の進行に伴う視力の低下などにより映像作品の制作は困難になりましたが、その手を止めることなく、アクリル絵具による平面作品の制作に精力的に取り組んできました。外出もままならず、老朽化による取り壊しが予定された自宅で静かに過ごす時間のなか、ふと目にとまった親しみのある光景――そんな瞬間を切り取り、パネル上に原寸大の絵としてトレースしていきました。佐藤の筆というフィルターを通すことによって、誰にでも見慣れたモチーフが、一つ一つの心的表象となって現れてくるようです。本展ではそのなかから、9点を発表します。

佐藤雅晴は1999年東京芸術大学大学院修士課程修了後、デュッセルドルフクンストアカデミーに在籍、10年間滞在し、2010年日本に帰国。世界各国の主要都市で精力的に作品を発表し、2009年には第12回岡本太郎現代芸術賞特別賞を受賞、2011年には第15回文化庁メディア芸術祭審査委員会の推薦作品に選ばれています。2016年原美術館で開催された個展「ハラドキュメンツ10 佐藤雅晴ー東京尾行」は大きな注目を集めました。国内外で高く評価されています。

ビデオカメラで撮影した日常の風景を、パソコン上でペンツールを用いてなぞるようにトレースし、アニメーション化するロトスコープと呼ばれる表現を用いた作品で知られています。実写をトレースしさらに映像化されたモチーフがみせる「リアルでどこか奇妙な動き」は現実と非現実が交錯したような時間を感じさせます。

本展「死神先生」は、佐藤の映像作品が出品される森美術館での「六本木クロッシング2019展:つないでみる」(2019年2月9日~5月26日)、トーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)での「ACT」シリーズ第1弾「霞はじめてたなびく」(2019年2月23日~3月24日)、と並行して開催いたします。


佐藤雅晴によるステートメント

2018年9月、もう8年近く闘っている癌の担当医師に余命3ヶ月と宣告され、不動産屋からは住んでいる家を老朽化を理由に、2019年3月までに出ていくことを要求されました。

今回新たに発表する平面作品は、ぼくがこれまで発表してきた映像作品の制作方法とあまり変化はなく、モチーフを写真撮影し、パソコンで形をトレースし、木製パネルにアクリル絵具でそのイメージを再現しています。デジタル作業と違って、絵具を画面に塗る生理的な感覚はとても気持ちがいいものです。制作途中の絵を壁にかけて鑑賞するという幸せも初めての体験でした。

45歳にしてこんな新鮮な思いで、絵を描くことができたのは癌のおかげかもしれません。

余命宣告をした担当医は、これまでぼくを診てくれた医師とは大きくかけ離れたタイプで、診療の時はぼくの顔を見ないままパソコンに向かって話すような先生でした。

結局、7ヶ月の抗癌剤治療のうち、回転椅子を回してこちらの方を向いて目を見て話したのは、抗癌治療が全く効果がないので、緩和ケアに移動してもらうと言われた時でした。

人界を超えたその顔を眺めながら、ぼくは初めから人間として接してもらえていなかったのだと気付きました。

そして、その直後に死神先生というあだ名を思いつき、心がすごく楽になりました。

死神先生からの余命宣告は罠です。彼が言ったタイムリミットを信じて、ただ死に向かって時を過ごすのは自殺行為です。

3ヶ月という時間をどう過ごすかは、ぼくの自由です。

誰の目も気にせずに、家と共に消えていく存在を、絵にしたいと思います。


展覧会概要

  • 名称:佐藤雅晴「死神先生」
  • 会期:2019年2月15日(金)- 3月16日(土)
  • 会場:KEN NAKAHASHI (160-0022 東京都新宿区新宿3-1-32 新宿ビル2号館5階)
  • 開廊時間:11:00 - 21:00
  • 休廊:日・月
  • オープニング:2月15日(金)18:00-


佐藤雅晴が書きつけた作品についての文章

ガイコツ

妻が作品を制作するために購入したガイコツの標本が居間に飾られていて、慣れない間は夜中によく驚かされていました。それに長年通っていた病院の診察室にもガイコツの頭が置いてあったので、僕にとっては身近な置物のような存在でした。ただ、ぼくの担当医に「死神先生」というあだ名をつけた頃から、ガイコツが怖い存在になりました。なのでその恐怖を打開すべくキャラクター化しようと試みたのがこの作品です。

チャイム

余命宣告の報告をフェイスブックで告知してから、多くの友人、知人が家にお見舞いに来てくれました。会う前までは体がだるいし面倒だなと思っているのですが、いざ玄関のチャイムが鳴ると幸せな気持ちに毎回なりました。今思うと、ブザーではなくてチャイムの音だからよかったのかもしれません。

コンセント

小学生の時にコンセントというあだ名をつけられた友達がいました。鼻の穴の形が細長かったからですが、いまでもコンセントを見ると彼を思い出します。

スイッチ

自宅のスイッチは、OFFにすると小さな光が灯る。自分はOFFにもかかわらず、夜中に「ここだよ」と教えてくれているその姿勢に感動します。

ダンボール箱

ここ数年でダンボール箱が異常に増えた。ダンボール箱は最近住み始めた猫のハナちゃんにとって格好の遊び場なので、なかなか捨てることができないし、ネットの買い物が増えたためか真相はわからないけれど、あえて絵でも描いてさらに増やしてみました。

浴室

昔の家はよく見るといろいろな色で部屋が満たされていることに気付きます。特に自宅の浴室の壁は青いタイルに囲まれているので、爽やかでリッチな気分が味わえます。現代の浴室に比べれば機能的にかなり問題がありますが、毎日、何に触れて過ごすかはとても重要なことだと思います。

夜空

この作品では、2階の寝室の窓から見た夜空を描いています。抗がん剤治療をはじめてから夜になると不安でなかなか寝付けなかったので、毎日睡眠誘導剤を飲んでいましたが、すぐには眠れなくて、気分を落ち着かせるためによく夜空を見ていました。ただ、田舎に住んでいるわりに星がよく見えるわけではなく、月と数個の星は見えました。それでもよく眺めていたのは、ときおり通る飛行機の光でした。5年前はよく海外に行っていたのですが、気がついたら病気のこともあってパッタリと利用しなくなっていました。真夜中でも多くの人々を乗せて移動する乗り物を見ていると、なぜか気分が楽になります。いつかまた元気になったら今度は、ぼくが上空から夜の街を見てみたいです。

ヤモリ

人によっては気持ちの悪い生き物かもしれませんが、子供の頃から家を害虫から守ってくれる縁起のいい生き物と教えられたので、夜の窓の網戸を這っているヤモリを見つけるとぼくの家は守られているなぁと勝手に思い込んでしまいます。でもこれも人間の勝手な思い込みってやつで、あの小さな肩には相当の重圧だと思います。たまたま家を徘徊していたヤモリにとってはいい迷惑ですね。ゴメンなさい。

階段

この作品を描いている途中で階段の数を数えたら9つあった。ちょうど9月からはじめた制作は順調に進み、この絵で9つ目でした。毎回、この絵で最後かもしれないと思っていたけれど、こんなに増えて自分でも驚いています。ちなみに階段をモチーフにしたのには、築60年も経っているのに上り下りの際にきしむ音がしない丈夫さに憧れて選んだからです。また、季節によって朝日に照らされた無垢の木の表面が黄金色に輝くのも気に入っています。

now

現在・未来の時間のなかで、死を覚悟すると一番大事になってくるのは現在だと思います。過去を振り返ってばかりいても虚しくなるし、未来を想像しても絶望的な気持ちになります。当たり前のようなことですが、「現在=今」という瞬間を楽しむことが最良の過ごし方だと、今更ながら気付きました。

2018年11月13日 佐藤雅晴


佐藤雅晴は、展覧会開催中となる2019年3月9日10時56分、家族に見守られる中、眠るように亡くなりました。


The Artist

佐藤雅晴

Bio

  • 1973年 大分県生まれ
  • 1996年 東京芸術大学美術学部油画学科卒業
  • 1999年 東京芸術大学大学院美術科絵画専攻修了
  • 2000‐2002年 国立デュッセルドルフクンストアカデミーにガストシュラー(研究生)として在籍
  • 2010年 日本に拠点を移す
  • 2019年 他界


Selected Works


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