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KEN NAKAHASHIでは、2023年6月6日(火)より7月15日(土)まで、海老原靖の個展「Hands」を開催します。


海老原靖は、描くことを通して、消えゆく存在を継承しようとしています。

これらの絵画作品は、人生という時間の流れを感じさせ、やがて鑑賞者を、一瞬の間に漂う静けさへと誘い込みます。


1995年、柏美術研究所という美術予備校に通っていた海老原靖は、同研究所で講師をしていた佐藤雅晴と知り合い、その後、長年にわたって親交を深めました。

アニメーション作品《Hands》(2017年)など、手を作品のモチーフに取り上げ、死の直前まで、自らの手で制作し続けた佐藤とその作品から海老原が受けた影響は、佐藤の死後、海老原の中で、さまざまな手の情景をとらえた新たなペインティングシリーズ「Hands」と成っていきました。

毎日絵を描き、世界と接点を結んでいる自分の手のひらを、大きくキャンバスに描いた《幻影1》《幻影2》(2023年)の他、さまざまな時間、場所における、感情や記憶、人と人との相互関係の中で現れてくる、印象的な手を描いた全20点を発表します。


また、海老原の「Hands」シリーズに加え、自身の制作に影響を与えてきたものとして、まるで個展の中に取り込むかのように、佐藤の平面作品一点《Supporter》(2015年)を展示します。



広げた掌を見つめる。

存在/不在の輪郭をなぞる。

硬くなったペンキ刷毛に油絵具をのせて、キャンバスを引っ掻くように描く。

それらを一日に何度も繰り返す。


海老原靖



海老原靖

1976年、茨城県生まれ。

1999年、東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。

子供の頃より絵に夢中だった海老原靖は、時間と共に忘れ去られてしまいそうな存在の記憶を残そうとするアプローチで制作を続けています。

主な代表作に、映画をモチーフにした「Noise」シリーズ、90年代に人気を得た子役の象徴的存在を描いた「Macaulay Culkin」シリーズなどがあります。


[主な個展]

  • 2023年「Here and There」(Wada Fine Arts、東京)
  • 2022年「Colors」(Wada Fine Arts、東京)
  • 2021年「Garden—隙間をうめること」(KEN NAKAHASHI、東京)
  • 2015年「if…」(matchbaco [現 KEN NAKAHASHI]、東京)
  • 2010年「NOISE」(Y++, Gallery Triwizard、北京)

[展覧会概要]

  • 展覧会名: 「Hands」
  • 会期: 2023年6月6日(火)-7月15日(土)
  • アーティスト: 海老原靖
  • 協力: imura art gallery、大垣美穂子
  • 開廊時間: 11:00-18:00
  • 休廊: 日・月



本展の開催に際し、精神科医の阿部大樹氏による文章を掲載します。




海老原さんのアトリエは、

小さな体育館よりも小さくて、

大きな会議室よりも大きいくらいです。

プレハブ建築で、なかに入ると広い机をたくさんの絵筆と

絵具と名のない小物たち(ブリキの箱とか)が占領していて、

その端の方の、それでも壁にかかった作業中の絵のよく見えるところに

彼は座っています。


隅に、物干竿があって

何か吊るすんだろうか、乾燥させるために、油絵とかを、フックにかけて…

と思って聞くと、そんなことはなくて(もちろん)

斜めに立てかけて、そこに手をおいて筆をもつそうです。

キャンバスの、まだ乾いていないところに触れないように。


キャンバスの掛かっていない壁には

ソファとその他の色々(割れたギターとか)が積まれていて

下に、佐藤雅晴さんの蝋人形が上を向いて寝ています。


資料というか、

昔一度だけ読まれて、

でもまたいつでも読まれる準備のできているような厚い古い美術書と

映画の資料集とかシナリオが、

毎朝する日課のためのパソコンの脇にあって

いまにも崩れそうですが

アトリエに伺うたびに確認しても変わらず並んでいます。


かかっている絵の行くたびに変わっていることとは対照的です。


たばこの匂いも溶き油の匂いもしなくて

あえて言えばアトリエの北東にある竹林と

その手前にある枯草の大きく盛られたところを抜けた乾燥した空気で

プレハブはいっぱいです。


竹林と母屋の間には

西瓜を植えるという畑があり、振り返ると

頭のこんもりした

刈り込まれた庭木が門に向かって並んでいて

背景の空は晴れていて、でも非日常というのではないのです。


まぎれもなくアトリエは、彼の手によるもので、

その外には、景色があって、これは誰にも触れることができません。

このことも対照的だと思います。


阿部大樹(精神科医)




対象を「自分の中に取り込む」トレースという行為。

佐藤雅晴は、自ら撮影した写真や映像の中の風景などをデジタルペンツールでなぞるロトスコープという手法で描きつづけた。

2010年、ドイツでの留学・制作を経て帰国し、茨城県に居を構える。

その直後、上顎がんが発覚。闘病しながらも、2019年に45歳で亡くなるまで作品を発表し続けた。

例えば、アニメーション作品《Hands》(2017年)では、猫を撫でる、本のページをめくる、入れ歯を洗うなど、手を使って世界と関わっている33のシーンが描かれた。

佐藤が自らの人生を確認しながら、死の淵に立たされながらも、周囲の世界に希望と幸福を見出そうとする魅力が伝わってくる。

また佐藤は、映像作品と並行し平面作品も制作した。

対象物から一定の距離を保ちつつも緻密に実写の表面を写しとる、フォトデジタルペインティングという手法によって描かれている。

本展では、特別にimura art galleryと大垣美穂子の協力を得て、《Supporter》(2015年)を招待作品として展示する。




写真・ジェンダー表象研究者の小林美香氏が、海老原靖「Hands」展に寄せた文章を掲載します。

ESSAY–Tuesday, July 4, 2023



PRESS RELEASE—June 6, 2023

HANDOUT—June 6, 2023




Hands
Hands
Hands
Hands
Hands
展示風景(撮影: 齋藤裕也)Installation View (Photo by Yuya Saito)